ついにアファナシエフを生で聴くときがやってきた。CDでブラームスの間奏曲を聴いて以来、一番お気に入りのピアニストとして君臨していたのだ。アファナシエフの演奏はかなり奇抜である。知っている曲でも違う曲に聞こえてしまうほど遅いのである。ただ遅いなら、ただのピアニストだが、より深い感銘を覚えるのだからすごい。度々来日はしているみたいだが、なかなか機会がなかった。
今日の曲目はリストイヤーということでリストを中心としているが、なかなかにマニアックな選曲である。おまけにテーマは葬送ということなので、アファナシエフの神髄を聞けそうな公演なのだ。前半最初のベートーベンは聞きやすい中にも、哲学的なまでに深い響きを感じた。意識しすぎだろうか?その後のリストとドビュッシーは一気に続けて演奏された。「悲しみのゴンドラ」は第1稿しか聴いたことがなかったので初めてだったが、何かが憑依したかのような凄みで、呆気にとられるほどの激演。「寺」も独特の超スローで素晴らしい演奏だった。何という叙情性か。
後半も全曲一気弾き。ショパンは意外にもそんなにスローではなかったが、中間部の穏やかなテーマは優しく心地よかった。極上のひとときといえよう。圧巻はリストでしょう。後半の英雄ポロネーズ部分はそれとなく聞こえず不鮮明だったのは残念だったが、テンポを自在に操ったダイナミックな演奏は交響曲でも聴いているようだった。
大してお辞儀もせず、笑顔も見せず、アンコールもなかった。近年見られなくなったカリスマ的な孤高の芸術家だ。名誉のために付け加えておくと、決して礼儀がないということではない。終演後のサイン会では優しく接してくれたし、表情も穏やかだった。舞台という戦場ではものすごい集中力なのだろう。久々に「芸術家」に会ったような気がする。アファナシエフ、やっぱり素晴らしいピアニストでした。
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